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漁業団体が抱えていた課題に、
動き出した「はかり屋」魂。
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漁業団体が抱えていた課題に、
動き出した「はかり屋」魂。

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デジタル秤にとって、設置される場所が水平で安定していることは極めて重要なこと。揺れや振動がない環境は、精度の高い計量の大前提。しかし、そんな常識を覆そうというチャレンジが2017年からタナカ社内で本格化していた。開発を主導したのは開発部の天野だ。「たとえば沖合漁業で、国の水域の境界線をまたいで漁業者が操業する際には、定められた割当量を超えないように漁獲量を洋上で申請する必要があります。港に着く前に、船上で、しかも機械式より信頼性の高いデジタル式での計量を近年は求められる傾向にあり、漁業団体は困っていました。タナカのなかでもデジタル船上スケールは以前から検討はされていたのですが、なかなか実現できておらず、IoT時代の今、完成すれば、船上ではかることの意味はもっと大きくなるという予感もあり、開発を本格化させました」(天野)。海外に高額で特殊な製品はあるものの、多くの漁船に搭載できる価格帯で、求められる精度を実現している船上スケールはない。自分たちにもどうすればできるのかはまだ見えない。しかし、はかる必要がそこにあるならば、はかってみせようと踏み出すのがタナカのはかり屋魂。開発メンバーの試行錯誤が始まった。

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失敗。遠洋の大きな波の
揺れに対応できず。
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失敗。遠洋の大きな波の
揺れに対応できず。

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挑戦は、薄暗い自社倉庫のはじのスペースで始まった。揺れ動く計量環境を再現するため、天野たちはバネのついた台を自作し、倉庫のはじにクレーンで吊った。そこに試作機を載せて、揺らしながら地道にデータを取ってはプログラムを修正する作業が繰り返された。最初の試作機では、機器の動きを検知するセンサーを搭載し、数値を補正する方式を採用。工場内のテスト環境では、順調に目標とする±3%の精度を実現できるようになった。そこで2018年4月、天野は国立研究開発法人水産研究・教育機構の調査船の協力のもと、試作機を遠洋へと送り出し、データを取得してみることに。しかし、その結果は厳しいものだった。「遠洋の波は大きかったです。4、5メートルもの波を越えてゆく船で、私たちの試作機は計量値を補正しきれずに、5%以上のズレを起こしていました」(天野)。同じ方式で改良を続けるか、全く違う方式をとるか。天野が選んだのは後者だった。

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これならいける。
独自の「揺動補正方式システム」誕生。
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これならいける。
独自の「揺動補正方式システム」誕生。

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「思い切って、搭載するセンサーから変更し、計量値を計算するプログラムを一からつくることにしました」(天野)。再び倉庫の端で様々に揺らしながらのデータ取りと調整の日々が始まった。開発メンバーには、壁にぶつかるといつも相談する人がいた。「タナカで40年以上、様々なはかりをつくってきた60代の先輩がいるんです。悩んだときは、その人に相談すると、ソフト面もハード面もアドバイスをいただける。そんな『師匠』が社内にいるのもタナカの強みです。1年ほど地道な検証を続けるうちに多くのことがわかりました」(天野)。試作機を小型漁船に載せてのテストでは、船のエンジンによる50〜60Hzの振動対策という課題も見つかったが、共振を防ぐ機械的な対策でクリア。遠洋を想定した大きな揺れへの補正力も検証。この方式ならいける。2018年冬には特許も出願。ついに実用化の道筋が見えた。

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IoTと連携した船上スケールが、
水産業を進化させる。
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IoTと連携した船上スケールが、
水産業を進化させる。

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2019年8月、開発メンバーは東京ビッグサイトにいた。水産業の技術展「フィッシュネクスト技術展」にブース出展し、開発を続けてきた「船上スケール」試作機を初めて世の中に発表したのだ。試作機を大きく揺れるディスプレイに載せて揺らしながらのデモンストレーション。表示される計量数値が揺れない様子に、多くの来場者が足を止め、説明に耳を傾けた。「養殖業や資源保護など、想定していなかった領域でのニーズがあることもわかり、大きな手応えを感じました。海外からの引き合いもいただいています」(営業部 野俣)。「コンソーシアムを組むパートナーになりうる企業とも出会えました。製品単体を売るだけでなく、計量データを船上からリアルタイムに送るシステム開発など、IoTも駆使したソリューションとしての開発・提供も進めていきます」(営業部新潟支店長 小柳)。2020年の発売に向け、開発はいよいよ、量産開発、規格取得の段階に入った。IoT時代の船上スケールの可能性を評価され、NICO(公益財団法人にいがた産業創造機構)から開発助成金の交付を受けられることも決まった。世界初の挑戦。風向きは良好。新潟の倉庫の片隅で始まった開発が、世界の水産業を変えるかもしれない。